雨天決行と強がりを言いながら、植物部会・新緑の玉原を実施し、霧に包まれたブナ林の美しさに酔いしれた。すべてを覆いつくしブナの美しさを表出する霧の見事さに感嘆!!。
ところどころに残雪、5月13日とはいえ標高1200ⅿの玉原高原、咲いている花はオオカメノキとタムシバ(ニオイコブシ)、草本は湿原のミズバショウ、そしてアズマイチゲ、エンレイソウなどでまだまだここ玉原の春の訪れは遅い。
熊谷駅、森林公園駅に集った22人が今回の参加者。博物館の須田さんもこのメンバーの1人だ。ほぼ定刻に玉原に到着、身支度を整えて出発。一昨年の秋冬眠前につくられたミズナラの木にある“熊だな”が目に飛び込んでくる。熊だなから落ちている枝は大人の腕の太さほどもある。ツキノワグマの力に圧倒される。湿原の入口には「十二山宮」があり、3m弱の最大積雪時「鳥居が隠れる」ほどになるとのことだ。
湿原のそこここには、沢筋・水たまりがあり、クロサンショウオの卵塊を見ることができた。
バス内での事前学習をふくめ、30年間(10年ごとの調査結果)・植生図を見比べて、木道の取り外しや位置替え、人工排水路の堰の役割など水の動きや湿原の乾燥、それにともなう植生の変化などを学ぶ。ハイイヌツゲやヨシ・アブラガヤ刈り取りで、湿原の植生回復も見えることとなった。
登山道・利根の水源ルートはトチノキ・サワグルミの木立のたたずまいが美しい。水を好む木々たちの住み分けの姿だ。
ブナ平入口にたどり着いて昼食。しばし日本海側気候のもとで生育しているブナ林を楽しむ。ほぼ平坦になった登山道を歩く。森の更新3種(ギャップ更新、マウンド更新、倒木更新)や雪害・動物害、風・台風などの気象害などと、木々の葛藤の姿を追った。
戦前戦後の国策大伐採の跡地に、人為で壊した所は人為で回復の端緒をつくらねばと取り組んでいるグループの「植栽地」を見る。昨年のブナの豊作で異常繫殖したアカネズミ or ヒメネズミの食害が激しい。7m間隔に植えられ、5mにも育った植栽木がかじられて満身創痍だ。根から吸い上げた水は枝の先までいかない。多分この木は枯れてしまうのだろう。人為の努力の空しさと生き物の力強さを教えられる。
この植栽地にはキハダの木が多い。キハダの由来を知らない人がいるので、若干の樹皮をいただく。コルク層の下の黄色い部分(ここが樹木名の由来)を味わってもらう。『苦い』胃腸薬にも染め材にもなって、人が生きていくうえで大事なものだと知ることとなった。
タムシバ(ニオイコブシ)は美しい。早春にムシカリの花やムラサキヤシオに先立って咲き誇るブナ林の女王の風格をもっている。
ミズバショウを除いて、湿原の花たちには会えなかったが、早春・新緑のブナ林は、芽吹きのブナの森を霧につつみ、静謐で荘厳なすがたで我々を歓迎してくれた。
(飯野幹雄・記)